東京地方裁判所 平成2年(ワ)7615号 判決 1991年7月30日
原告 協同組合金町すずらん会
右代表者代表理事 籔崎英和
右訴訟代理人弁護士 髙城俊郎
同 古内眞也
被告 株式会社 清水商店
右代表者代表取締役 清水鎌治
右訴訟代理人弁護士 須永喜平
主文
一 被告は、原告に対し、金六九〇万七〇一〇円及びこれに対する平成二年六月一日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 被告がアーケード管理規約に基づき、平成二年六月一日以降(①については同七年六月まで)、毎月末日限り、左記債務を負担することを確認する。
① アーケード利用料 三万九九九〇円
② アーケード維持管理費 一万九九〇〇円
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告に対し、金八二一万一〇一〇円(左記内訳)及びこれに対する平成二年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
出資金 一三〇万四〇〇〇円
利用料 四五二万二二九〇円(昭和五五年七月―平成二年五月)
維持管理費二三八万四七二〇円(同期間)
二 被告がアーケード管理規約に基づき、平成二年六月一日以降(①については同七年六月まで)、毎月末日限り、左記債務を負担することを確認する。
① アーケード利用料 三万九九九〇円
② アーケード維持管理費 一万九九〇〇円
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合で、被告は、その組合員である。
2 原告は、昭和四一年か同四二年頃、その総会において、アーケードの建設をすると決定し、同五三年二月二一日、第二一期通常総会において、定款第七条第一項に、原告組合の目的として、第一五号「組合員のためにするアーケード建設に関する共同事業」とする項目を追加する改正をし、その後、アーケードの建設事業をするとの決定をした上で、同五五年六月、アーケードの建設を完成した。
なお、被告は、アーケードの建設には、同意していない。
3 原告の定款第一六条には、「組合は、その行う事業にあてるため組合員に経費を賦課することができる。前項の経費の額、その徴収の時期および方法その他必要な事項は総会で定める。」と規定し、原告は、同五五年七月二五日、臨時総会において、アーケード管理規約を制定し、同規約において左記のとおり定められた。
(1) アーケードの建設関係費(工事費、借入金利息その他附帯費を含む。)と維持管理に要する費用は、受益者負担の原則により、管理委員会が算定し関係者に賦課する(第五条)。
(2) 建設関係費の二〇パーセント相当額は、出資金として、アーケード地区関係者より建設工事完成までに一時金で徴収する(第七条)。
(3) アーケード地区建設関係費の一八〇分の一相当額は、利用料として、建設終了の翌月から一五年にわたって毎月アーケード受益者より徴収する(第八条)。
(4) 維持管理費は管理委員会で決定し、月割り徴収する(第九条)。
二 争点
1 (原告の主張)
原告は、管理委員会において、被告の負担金等について、別紙計算書のとおり算出し、左記のとおり決定した。
(1) 出資金 一三〇万四〇〇〇円
(2) 利用料(月額)
昭五五・七―五九・一二 三万五六一〇円
昭六〇・一―平七・六 三万九九九〇円
(3) 維持管理費(月額)
昭五五・七―五五・一二 一万一八七〇円
昭和五六・一―五九・一二 一万七八〇〇円
昭六〇・一―六三・二 一万九九〇〇円
昭六三・三―平二・二 二万六八〇〇円
平二・三― 一万九九〇〇円
2 (被告の主張)
(一) アーケードは、建設資金約三億円中、東京都の高度化資金からその八〇パーセントを借り入れて建設し、総事業費の二〇パーセントについては原告の組合員及び準組合員から一定の割合で算定された額を出資金として建設工事の着工時までに徴収し、また、建設工事代金全額は、右一定の割合で算定された額をアーケード利用料として原告の組合員及び準組合員が月払いするとの予定であった。
(二) 東京都は、貸付の条件として、前記総事業費のうち二〇パーセント相当額を出資金としてアーケード地区関係者より建設着手時まで一時金として徴収し、それを自己資金として準備すること、並びに原告組合員全員がアーケードの建設及び建設資金の負担に同意していることを要すると定めており、また、原告の定款第七条の規定により組合員のために共同事業を行う場合には、個々の組合員がそれに参加することを決め、参加した組合員が経費の分担をすることとされている。
(三) 被告は、原告も認めるとおり、アーケードの建設及びその費用の負担に同意しておらず、出資の引受けもしていない。その理由は、アーケードの建設によっては金町駅の北口に流れた客を南口にあるすずらん通りに呼び戻すという原告の目的は達成されないし、酒販売業を営む被告にとって、多額の建設負担金債務が経営を圧迫することに成りかねないからであり、現に、アーケードの建設後も、客は増加しておらず、商店街の活性化も図られてはいない。
(四) 以上のとおり、組合員に多額の負担を強いるような事業については、原告は、これに参加することを希望しない組合員に対し、その同意がない限り、定款上、また信義則上、事業に要する費用を負担させることはできない。
第三争点に対する判断
一 (原告管理委員会における被告の負担金の決定)
1 原告は、管理委員会において、被告の負担金等について、別紙計算書のとおり算出し、前記争点1(原告の主張)(2)及び(3)記載の金額のとおり決定した。右決定の内容は、管理規約が制定される前から組合員に明らかにされており、昭和六三年二月に開催された通常総会において、同年三月から平成二年二月までの間の維持管理費の増額が決定され、右各決定の内容は、その頃、各組合員に通知された。
2 前記争いのない事実記載のとおり、原告は、総会において実施を決定したアーケード建設事業の費用の負担についても定款で定め、これに基づき、総会において前記内容のアーケード管理規約を制定し、右認定のとおり、アーケード建設事業の費用として被告の負担すべきアーケード利用料及び維持管理費の額を決定し、組合員に通知した。これによれば、原告の総会の決議に無効事由のない限り、被告は、右アーケード管理規約に基づくアーケード利用料及び維持管理費を支払う義務を負うものと解すべきである(出資金については、後述する。)。
二 (アーケード利用料及び維持管理費の負担義務)
1 被告は、原告のアーケード建設事業において、建設資金の八〇パーセントを東京都の高度化資金から融資を受けることが予定され、融資の条件として、総事業費の二〇パーセント相当額を出資金としてアーケード地区関係者より建設着手時までに一時金として徴収すること、並びに原告組合員全員がアーケードの建設及び建設資金の負担に同意していることを要するとされており、原告の定款第七条においても、組合員のために共同事業を行う場合には、参加した組合員のみが経費の分担をするとされているとして、被告がアーケードの建設及びその費用の負担に同意しておらず、出資の引受けもしていないことを理由に、原告の主張する費用の負担をする義務を負わないと主張する。
2 前記のとおり、原告の総会において、アーケードの建設事業の実施が決定され、これを決定した総会の決議に法律上の瑕疵がない以上、決議の効力が左右されることはない。被告が右事業の実施及び費用の負担に賛成していないことは原告も認めるところであり、これに賛成していたのは、六〇数名の原告の組合員中九〇パーセント程度であった(原告代表者)のであるが、右事実は、総会の決議の効力に影響しないことは多言を要しない。また、東京都においては、高度化資金の融資の条件として原告組合員の全員がアーケードの建設及び費用の負担に同意することを要する取扱いとしているが、東京都の担当者は、原告が融資を受けるについて、全員の賛成を得ていないことを知り、組合員全員の同意を得るように促した上で融資を決定した(原告代表者)のであるから、原告としては、都との関係では、条件を満たすように努めるべきではあるが、全員の同意が得られないからと言って、融資の効力が左右されるものでもない。
3 原告のする共同事業について、これに賛成する者のみが費用を負担して実施するものがある(被告代表者)が、原告の定款第七条の規定を見ても、すべての事業が賛成者の費用負担においてしか実施しえないものと解することはできない。
被告が原告の総会において決定されたアーケード建設事業に反対する理由は、アーケードの建設によっては原告組合員の多くの者が営業しているすずらん通りに客が増加するということにはならないというにあると解されるが、被告の意見は、言わば前記事業の採用をするかどうかという組合による政策決定の賢明さに関するもので、原告の総会において、前記事業の決定の可否を論じる際に主張されるべきことであり、総会の運営に違法があり、決議に法律上の瑕疵がある場合は格別、意見が総会の決定と異なるからといって、被告が総会の決定に従わなくて良くなるものでもない。
4 以上、要するに、原告組合において所要の手続を経て事業及びこれに伴う費用負担が決定された以上、決定の内容に法律上の瑕疵がある等の事情がない限り、組合員が総会の意思決定に拘束されるのは、団体に所属する以上避けられないことであり、右請求をすることが信義に反するものでもない。
三 (出資金の支払義務)
1 被告は、出資の引受けをしていないことを理由に、出資金の支払義務を負わないと主張する。
原告がアーケード管理規約において、建設関係費の二〇パーセント相当額は、出資金としてアーケード地区関係者より建設工事完成までに一時金で徴収すると定め、アーケード管理委員会が被告の負担すべき出資金について、所定の基準に従って算定したことは、前記のとおりである。
2 中小企業等協同組合法の下において、組合員となるためには出資一口以上をすることを要するものの、出資を強制しうるものと解することはできない。本件において、前記管理委員会において負担を決定した出資を被告が引き受けたことについては、原告の主張しないところである(事業に賛成していない被告が出資を引き受ける道理がないことも見易いところである。)。そうすると、引き受けてもいない出資金の支払を被告に求めることができないことも、明らかである。
五 (まとめ)
よって、原告の請求は、出資金の支払を求める部分は理由がないが、利用料四五二万二二九〇円(昭和五五年七月から平成二年五月分まで)及び維持管理費二三八万四七二〇円(同期間分)計六九〇万七〇一〇円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成二年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、並びに右同日以降、毎月末日限り、被告が、アーケード利用料三万九九九〇円(平成七年六月まで)、アーケード維持管理費一万九九九〇円の支払債務を負うことの確認を求める部分は、理由がある。
(裁判官 江見弘武)
<以下省略>